『お願いだから側にいて』~寂しいと言えない少女と孤独な救命医の出会い~
どこかが似ている
side 真理愛

「何か飲む?」
「いいえ」

10分ほど歩いて到着した先生のお家。
そこは、特別豪華でもないごく普通の1LDKのマンションだった。
足をかばって歩く私に付き合ってゆっくり歩いてくれたから、実際は5分少々で到着する距離だったと思う。

「ここが、先生のお家ですか?」
「うん。病院の職員用宿舎を借りているんだ」

意外だな。
お医者さんってもっと豪華なマンションに住んでいるってイメージがあるから。

「救命医は忙しいばかりで、家なんて寝に帰るだけだからね。医者はみんないいマンションに住んでいるわけじゃないよ」
「へえー」

「それより、先生って呼ぶのやめてくれる?病院にいるみたいで落ち着かない」
「はあ。じゃあ・・・」
なんて呼べばいいんだろう。

「敬でいいよ」
「敬さん?」
「そう」

年上のお医者さんを名前で呼ぶなんてためらう気持ちもあるけれど、確かに『敬さん』って呼ぶ方が似合っている気がする。
おかしいな、私はお金で買われたはずなのにこんなにくつろいでいる自分が不思議。

「着替えてくるよ」
「う、うん」

奥の部屋へと消えて行った敬さん。
一人残された私は、その場に立ち尽くした。

< 23 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop