高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


ずっと、触れられるのが怖いのは、一方通行だからだと思っていた。
私だけが好きなのが虚しくなるからだって。

ううん。最初は実際にそうだったはずだ。
でも、次に付き合った人は私を想ってくれていたのに無理で、だから私はもう相手の気持ち関係なく、男性に触れられること自体が怖くなってしまったのだと愕然とした。

そんなときだった。上条さんとひと晩過ごしたのは。

今までどれだけ試してもダメだったのに、上条さんとならできた。
だから、もう時間が傷を癒してくれたおかげで無事トラウマは克服して、大丈夫だと思っていたのに……私はまだ、乗り越えられていなかったの?

好きだと言われて嬉しいはずなのに、その先に待つ未来がとても怖く感じ唇をかむ。

『上条さんが私に特別な好意を持ってくれていないことはわかってます。振り向いてくれる可能性がないことも、ちゃんとわかってます。その上で、諦めたくないんです』
『好きだったら、権利とか言ってられなくなるもんじゃねぇの? 高坂って積極的な割に〝でも触らないで〟とか、矛盾してるとこがあるんだよな。本当に上条さんと付き合いたいと思ってるのか?ってたまに思う』

――今、気づいた。
私は、上条さんが振り向いてくれないことを前提として恋をしていたんだ。
ただ安心して片想いをしていたかったんだ。

それ以上先に進むのは……今も怖いんだ。

自分で思っていた以上に深く傷ついていたことに今更気付いて、どうしようもない自己嫌悪に襲われた。


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