高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「仕事帰りか?」

目の前で足を止めた上条さんが聞く。
三日ぶりの声も顔もカッコよくて、キュンと鳴く胸を感じながらうなずいた。

通行人の邪魔にならないよう、道の端に寄る。

「はい。上条さんたちは、まだこれから仕事ですか?」
「いや、終わったところだ。まぁ、まとまった商談もあるし一度社には戻ろうと思っていたが……明日でも月曜でも問題はない。ちょうどいいからなにか食べに行くか」

思いもよらない誘いを受け戸惑う。
心なしか上条さんの表情や声が今までよりも柔らかく感じるから余計だった。

まるで、三日前の告白が夢ではなく現実だと伝えてくるような態度に、鼓動がドキドキと速度を上げていた。

「あ、いえ。お仕事あるようですし、今度で大丈夫です」

とてもじゃないけれど、今は向かい合ってご飯を食べられる状態じゃない。
笑顔を作って断ったけれど、上条さんはやや不満そうに眉を寄せた。

「仕事が明日で問題ないから誘ってるんだろ。なにか予定があるのか?」
「いえ、そういうわけでは……」

上条さんに嘘をつきたくないために、とても煮え切らない態度になる。
そんな私に眉間のシワを深くした上条さんは、手を伸ばすと私の手を掴んだ。


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