高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


お守りに向けられていた眼差しが私を捉える。
その、あまりに穏やかな色合いに息を飲んだ……のだけれど。

「おまえが笑っていたり傷ついていたりする原因が、後藤だとか戸川ってやつのせいなのは、はっきり言えば気に入らない。俺が好きなくせにいつまでも他の男のことを考えているおまえにも腹が立つ」
「あの、全然いいんですけど……その、しつこすぎませんか?」
「最後まで聞け」

さっきまであんなに優しい感情を浮かべていた目は、すぐに厳しく細められる。
眉間にシワまで寄せた上条さんが、私の手にお守りを返し、そのまま握った。

私よりも冷たくて大きな手を、ためらいながらもそっと握り返す。
上条さんはそんな私に少し驚いた表情を浮かべたあと、口元に笑みを浮かべた。

「嫉妬が、想像していたよりも凶暴な感情だと知った。美波のひと言で気分が上がったり穏やかになることを知った。触れたいと、体の中心から溢れてくる欲を知った」

真面目な顔をした上条さんが私と目を合わせる。

「他になにを知れば恋愛になる?」

真剣な問いかけに、目を見開く。
胸を打たれ、じわじわと涙が生まれていた。

私は、出会った日から上条さんに惹かれていた。

一緒の時間を過ごすなかでその想いは強まり、それは際限を知らないかのように大きく膨らんでいった。

でも、まさかその恋を上条さんが受け取ってくれるとは思ってもみなかったし、どこかで諦め、片想いでも構わないとさえ覚悟していたから……こんなふうに目を合わせて想いを告げてくれる日がくるなんて、夢にも思っていなかった。

だから、嬉しくて胸が震えて仕方ない。


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