高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「あ、すみません。待ち伏せみたいなことしちゃって……というか、まんま待ち伏せていたんですけど、少しいいですか?」

反対の立場だったら、きっとそこまでの仲でもない同僚に待ち伏せされていたら不審に思う。

なので「いいけど……」と眉を寄せてうなずいた水出さんに、すぐに用件を口にした。

「先日、体調を崩したときに色々面倒を見ていただいた上、愚痴というか、散々無駄話に付き合わせてしまったので、そのお詫びにと思って。これ、よければ受け取ってください」

差し出したA5サイズのショップバッグを見た水出さんは、「これ、今話題になってるお店よね」と、店名を口にする。

私は桃ちゃんに教えてもらわなければ知らなかったけれど、水出さんの耳にはすでに届いていたらしい。

甘い物が苦手じゃないどころか相当好きなのかもしれない。

「友達にもらって食べたんですけど、おいしかったので、ぜひと思って」
「いいの? わざわざありがとう。たいしたことしていないのに、気を遣わせちゃってごめんなさいね」

顔をほころばせながらも丁寧に謝ってくれる水出さんに首を振る。

「いえ。本当に気持ち程度ですので。それに、部長の件も……その、見過ごそうとしてしまってすみませんでした。先日、コンプライアンス課から呼び出されて話を聞かれました。今後、人事を中心に話し合いになるそうです」


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