高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


部長はあと一年もせずに退職だ。
だったら、我慢できないほどではないし、このままでいいかと考えてしまっていた。

わざわざ声を上げて部署内がゴタゴタするのも正直面倒くさいし、被害が私に集中している今の状況なら、私がやり過ごせるならそれでいいかと、悪く言えば諦めていた。

けれど水出さんは、すぐに動いた。
水出さん自身は被害を被っているわけではないし、部長のターゲットは、後藤の件もあり鼻につく存在の私。

〝ざまぁみろ〟とまではいかなくても、放っておく選択肢だってある中で、水出さんはそうしなかった。

きちんとコンプライアンス課にメールを送り、部署内で起こっているパワハラの現状報告をしてくれた。

クリーンな会社づくりを、なんていうのは表向きだけで、社内には私が受けているようなパワハラやセクハラはたくさん存在する。

今回、専務の娘である水出さんが指摘してくれたことで、被害を受けている社員が声を上げやすくなったのはたしかだった。

「第三者の目線で水出さんが先に報告してくれていたので、コンプライアンス課の聞き取りは、それが本当かという事実確認から入れてスムーズに終わりました。ありがとうございました」

水出さんの労力は、私のためではなく会社のためだろう。
それでも救われたのは事実なのでお礼を述べると、苦笑が返ってきた。

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