高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


手渡されたのは、土地開発予定の概要と地図。

地方の土地に大規模なショッピングモールを建設するという。
場所は高速道路の出入り口からほど近い。徒歩では三十分近くかかる駅からの距離は気になるものの、シャトルバスを走らせればそこまでの問題はない。

すでに出店場所の落札は始まっていて、その一角にイタリアンレストランを構える予定で話を進めている。

「ブランドショップは今のところ八店舗か。思っていたより多いな」
「はい。すでに三店舗決まっているジュエリー関係も、価格が高めに設定されているブランドばかりです。基本的に、路面店は高級志向で、西側に立つ三階建てのビルに学生向けのリーズナブルなショップを集めるようです」
「うちが押さえている場所からすると、路面店側から流れてくる客が七、八割というところか。年齢層は高めだろう。ある程度値が張っても満足するレベルの料理の提供が必要になる」
「はい。そうおっしゃるかと思い、二ツ星レストラン以上でシェフの経験がある者を数名ピックアップしてみました。こちらに――」

ある程度話を詰めたところで時計が十三時を指す。
それを確認し「お昼に出ますか?」と聞いてきた緑川にうなずき席を立った。

「ところで、さきほどのメッセージは高坂さんですか?」

社内のエレベーターの中で聞かれる。
緑川にしては珍しくプライベートに関する問いかけだったが、緑川が口では厳しく言いながらも、なんだかんだと美波を気にかけているのは知っているため、素直に答える。


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