高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


この駅の周辺はオフィス街となっていてエキナカも人気のあるショップが揃っているため利用者数が多い。だから駅前もたくさんの人が行き来している。

気は収まらないものの、そんな路上で落ちた荷物をそのままにしておくのはさすがに邪魔だと思い、高校生への注意を諦め、バッグを拾い、散らばった問題集やらペンケースに手を伸ばす。

それにしても、これから試験だというのにバッグごと落とすなんて縁起が悪い。

私が大学受験の際に祖母からもらって以来ずっと大事にしてきたお守りまで落ちていて、やり場のない怒りを抱いたとき。

「あ!」

誰かの靴が、お守りを踏んだ。
私が大声を出したので、スーツ姿の男性はすぐに気付き足を上げてくれたのだけれど、時すでに遅し。

もう七年も持ち続けているため、もともとボロボロだったお守りは袋の生地が破れてしまっていた。
愕然としながらも中に入っている紙が見えている状態のお守りを両手でそっと拾うと、踏みつけた男性が腰を折って話しかけてくる。

「あー……悪い」
「……いえ」
「……それ、俺のせいか?」

男性に聞かれる。お守りがあまりにひどい状態だったから、それ全部が自分のせいか疑問を持ったのだろう。

たしかに、たったひと踏みでここまでになるとは考えにくい。


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