高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
「私の告白を適当に流さないでくれたから。しっかり考えて誠実に向き合おうとしてくれたから。それに、こうして会ってくれてることも感謝してます。ありがとうございます」
笑顔でお礼を言った私に、上条さんはバツが悪そうな顔をして目をそらす。
「やめろ。あまり言われると情をかけてるみたいで嫌になる」
そう言うってことは、会ってくれているのは100%私のためではないってことだ。
それに気づいたらまた嬉しくなって、だらしないほどに顔が緩んでしまう。
「じゃあ、好きだけなら言ってもいいですか?」
上条さんはゆっくりと私に視線を移す。
黙ったままだけれど、否定もされていないので、にっこりと笑顔で口を開いた。
「好きです。上条さん」
好きな相手に素直な気持ちを伝えられる。
それがとても幸せで、あたたかい満足感を抱いていたとき、上条さんが背もたれから背中を起こし、テーブルに両肘をつく。
一気に縮まった距離にドキッとしていると、上条さんが片手を私に伸ばし……そして、私の頬に触れそうになったところでそれを止めた。
左頬に感じる気配にも、空気を通して伝わってくる体温にも、心臓がトクトクと高鳴っていた。
上条さんは手をテーブルの上に戻してから、苦笑いでため息をつく。