エリート御曹司は独占本能のままにウブな彼女を娶りたい
誤解


夕方になって打ち合わせを終えると、優杏は有楽町駅に向かって急いでいた。
三谷に買い物を頼まれていたのだが、予定より少し遅くなっていた。

(急がなくちゃ……)

小走りで横断歩道を渡り終えたら、後ろから突然声をかけられた。

「秋本さん」

立ち止まって振り返ると、かつての上司、溝口がそこにいた。

「溝口さん……お久しぶりです」

今日の彼は仕事用のスーツではなく、爽やかなジャケット姿だ。

彼との噂が会社をやめる原因のひとつになったとはいえ、
溝口は仕事の上では尊敬できる優しい上司だった。

兄が亡くなったという一報を聞いて、優杏が会社で倒れた時に慰めてくれた人でもある。

「まさか、ここで君に会えるとは思わなかったよ」
「今日はお仕事ですか?」

溝口は今、四国支社のはずだ。

「いや、休みが取れたから妻と旅行中なんだよ」

溝口は少し照れくさそうに微笑んだ。

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