内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました

「桜、やっぱりいいですね。ようやく冬が終わるんだなって、気持ちが華やぎます」

 お客さまの喜ぶ顔が一番のご褒美だった。
「ありがとうございました」

 それなのに、どうしちゃったんだろう。

 通りに出て、ため息をつく。
「はぁ」

 とりあえず、悠との約束を断らなきゃ。

 会ってしまうと、また丸め込まれるような気がするから、ここはメッセージにしよう。

 早速歩道の隅に立ち止まる。

【ごめんね。週末の約束なんだけど、用事ができちゃった】

 既読は間もなくついて悠かの返事がきた。
【わかった。じゃあまた】

 これでいい。
 しばらくは誘われても会わないようにして、ほかの彼と会うというふうに、少し冷たくしよう。

 肩の荷が下りたところで、また歩き出す。

 夕べはなんとなく寝つけなかった。

 頭取の令嬢と悠が話をしている姿が脳裏に浮かんで、そのたびに心が沈むのだ。

 昼間は平気だったのに。
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