やわく、制服で隠して。
初恋

散る

桜はすぐに散る。

桜の蕾が開き始めて、景色が徐々にピンクに染まっていく。

ようやく満開になったかと思うと、毎年決められていたことみたいに大雨が降って、一気に葉桜へと変わる。

桜はすぐに散る。
今年もまた同じことを思った。

生徒手帳に挟んだ桜の花びらも、少しずつ白っぽく色素を無くし始めている。

「食べないの?」

さっきからスマホの画面と睨めっこしていた私は、深春の声で顔を上げた。

机の上に広げられた深春のお弁当は可愛い。
甘い味が想像できる卵焼き。お花に見立てた赤いウィンナー。きんぴらごぼうやブロッコリー、鮭の切り身も入っていて、バランスも彩りも抜群だ。

お弁当箱を包んでいた赤いチェックのハンカチも可愛い。この区画だけを切り取ったらピクニックの写真みたいだった。

深春のこういうところは春っぽいなぁって思う。
私は左手に持ったままだったサンドイッチを、包んでいたビニールの包装に置いた。

今日はお弁当を持ってきていなくてコンビニのサンドイッチ。
封を開けたまましばらく食べていないから、パンが乾燥し始めている。

「あー…、ごめんね。深春のこと放ったらかしてて。」

「ううん。でもご飯はちゃんと食べなきゃ。」

「うん。ごめん。」

深春に言われて、もう一度サンドイッチを持って口に運んだ。
乾燥したパンの表面がカサカサとくちびるに当たる。

「どうしたの?」

「んー?」

「さっきからずっとスマホ見てる。何かあった?」

心配そうな声で、だけど深春の表情は変わらない。
もう見慣れたけれど、なかなか変わらない深春の表情はやっぱり面白い。
だからこそ、微笑んでいる深春を見た時は余計に心臓の奥が揺れる。

「彼氏がね、今日会おうって。でもあんまり乗り気しないんだよね。」

「彼氏、居たんだ。」

口に運ぼうとしていた卵焼きを、深春は口に入れないまま、お弁当箱の蓋に置いた。
私をジッと見ている。
私はと言えば、まるで蛇に睨まれた蛙だ。
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