やわく、制服で隠して。
深春と一緒に、お世話になった人達の家を回った。

助けてくれた男性本人や、奥さんが出迎えてくれた所もあって、みんなが優しい言葉をかけてくれた。

「これも私達の縁だから、これからもよろしくね。」

そう言ってくれた人も居て、失った物より大きな物を得られた気がした。

「じゃあ、また学校でね。色々と本当にありがとう。おじさんにもよろしく。」

「うん。学校、ちゃんと来なね。まふゆが居ないと寂しいよ。」

「うん。」

深春の家の前で深春と別れた。
夕方になって、少し冷えてきた。パーカーのファスナーを閉めて歩く。

明日は一週間ぶりの学校だから準備もちゃんとして、それが終わったら夕飯を作る手伝いをしよう…、ママは、今日は部屋から出てくるだろうか。

もう一週間は三人で一緒にご飯を食べていない。
たまにリビングに下りて来ても、前みたいにママとどうでもいいお喋りをすることも無くなってしまった。

娘があんな目に遭ったんだもん。ショックだよね。
その原因は私にもあるのだから、もう一度ママに謝って、ちゃんと話をしよう。

首筋を風が撫でる。生まれ変わった私。
明日からはママが望む“普通”の女子高生になろう。

家に着いて、玄関に入った。
リビングからテレビの音が聴こえてくる。

「まふゆか?おかえり。」

「うん。ただいま。」

パパがリビングから玄関に出てきて、出迎えてくれた。

「お、髪、切ったのか。短いのも新鮮だな。」

「でしょ。パパ、私ちゃんとするから。もう変な心配はさせないよ。」

「そうか。早く入りなさい。今日も出前でも取るか?何を食べたいかママに聞いてこよう。」

パパが階段を上っていく。私は靴を脱いで、洗面所に行って手を洗った。

ママ、一緒にご飯食べてくれるかな。
話したいことがいっぱいあった。ママの気持ちも知りたかった。
もう一度私を信じて欲しい。

だけど、その日から、ううん。きっともうちょっと前から、私達家族は元には戻れなくなっていた。
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