やわく、制服で隠して。

膨らむ蕾

朝。姿見鏡の前に立ち尽くす。
一週間ぶりの、見慣れたセーラー服。見慣れないショートカットの私。

首元の痣は薄く、黄色っぽくなってきている。
化粧下地やファンデーションでなんとなく誤魔化したけれど、休み時間のたびにやったほうがいいかもしれない…。

化粧ポーチの中に下地とファンデーション、アイブロウカラーを入れて、ママに買ってもらったローズのチークを手に取って、迷ったけれどそのままメイクボックスの中に戻した。

ママとは結局話も出来なくて、昨日の夜、お風呂に入りに下りてきたママは、チラッと私を見て「誰かと思った。」とだけ言った。

ママと仲直りができるまで。このチークも塗らない。
そのうち季節が夏に変わって、このままじゃもしかしたらまた、春が来てしまうかもしれない。

それでもまたこのチークが塗れるって、また前みたいに戻れるって、私は信じていたい。

もう一度、姿見鏡の前に戻る。
セーラー服の赤いリボンを巻けずにいた。

結ぼうとすると嗚咽が込み上げてくる。
キュッと締まる感覚。暗示にかかったようにフラッシュバックする。

私が変わらなきゃ、周りの何かを変えたりもできないのに…。

スカートのポケットにリボンを突っ込んで、鞄を持って部屋を出た。

ママはリビングに居た。

「いってきます。」

ママの背中に向けて声をかける。
振り返って私のほうを見てくれたけれど、言葉は無い。

それでもいい。私を見てくれただけで嬉しかった。

「いってきます。」

もう一度言って、家を出た。
久しぶりの学校はやっぱり少し気が重いけれど、早く深春に会いたい。
そう思うだけで、自然と早歩きになる。

このまま家に迎えにいこうか?
いやいや、深春のことだからきっともう家を出ているだろうな。

私って、こんなに人に執着するタイプじゃなかったよね…。
あの事件以来、深春にすごく執着してしまっている気がする。

気をつけなきゃ。深春に嫌われたくないし、深春を失くしてしまったら本当に終わりだ。

誰かに対してこんな風に思う自分に、自分が一番驚いている。
だけどもう、一度認めてしまえば止められそうにない。

深春にはまだ言えないけれど、隣に居られるのならそれでいい。
普通の顔をして、友達として。
この想いを私の中に隠していくんだ。
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