やわく、制服で隠して。
少女達の秘密

二人だけの野外学習

「サボる!?」

野外学習前日の放課後。明日の野外学習、二人でサボろうって、突然深春が言い出した。

梅雨が終わって、気温が一気に高くなった気がする。
ほとんど毎日雨が続いて、ジメジメと鬱陶しかったけれど、そこに夏の暑さも加わって、気分は結構滅入っていた。

七月十日。二泊三日の野外学習が終われば、すぐに夏休みが待っている。

授業なんてもうほとんど残っていなくて、学年全体が旅行気分でソワソワしていた。

「うちの父さんと母さんね、私が居ないからって二人で旅行行くんだって。こんな日は滅多に無いからね。」

「へぇ。仲良いんだね。」

ふと、自分の家庭のことが頭をよぎって、暗い気持ちになった。
パパとママは、私が居なくても、きっともう二人で旅行には行かないし、家でも別居状態かもしれない。

夫婦仲が悪かったわけじゃないのに。
全部、私がそうさせたんだ。

「それでね、家に誰も居ないんだ。だからまふゆ、泊まりに来ない?」

「いや、でも…野外学習の計画だってあるし、班の人達に迷惑かけちゃうよ。」

「大丈夫だよ。だってキャンプの道具も食材も全部現地でのレンタルだし、レクリエーションも先生達が計画してるし。二日目のクイズハイキングも別に人数は関係無いし。」

「んー、そうだけど…。バレたらヤバくない?」

「まふゆって元ギャルなのに、結構慎重派なんだね。」

深春の言葉に、偏見だよって苦笑いした。
ごめんって言いながら、深春が腕に抱きついてきた。

放課後。夕方前だけどまだまだ陽が高くて、陽射しも強い。
西陽が当たっていて、顔をまともに上げていたら潰れそうなくらい目が痛い。

「ねぇ、まふゆ!」

「うん?」

「こんなチャンス、卒業までにもう無いかもしれないんだよ!?バレて怒られたってその時だけじゃん!二人で過ごした思い出のほうが絶対記憶に残るよ。」

「んー…うん、そうかも。」

「でしょ?」

深春が嬉しそうにブンブンと私の腕を振った。

「明日、ここで待ち合わせしよう。」

私達はいつの間にか、分かれ道の橋の上に着いていた。
いつも深春とここで手を振って、それぞれの家に帰っていく。

でも明日は別れの場所じゃない。
そう思うと急に高揚感が押し寄せてきた。

「分かった!」

「うん。それでね、ちょっと時間差で先生に電話するの。オーケー?」

「オッケー。」

じゃあね、約束だよって深春が言って、自分の家のほうへと歩き出した。
私も早歩きで自分の家へと歩いた。

予定変更。
家に帰ってからしようと思っていた野外学習の荷物の準備は、深春とのお泊まり会の準備だ。

さすがにこんなに大胆な“サボり”はしたことが無かったから戸惑ったけれど、それはとても素敵なことのように思えた。

深春の言う通り。
卒業するまでにこんなチャンス、もう無いかもしれない。

きっと私と深春にとって、これからずっと先の将来でも特別な時間になる。

きっと一生の、大切な思い出になる。
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