やわく、制服で隠して。
「おはよ。」

待ち合わせの橋の上で深春が手を振っている。
小走りで深春に駆け寄った。

二人とも、高校指定のジャージに、ボストンバッグを抱えている。
目的地は深春の家。
家だから生活に必要な備品は揃っているのに、二人ともやけに荷物が多いし、深春に至ってはそのまま自分の家に帰るのに、やたらと大荷物だった。

「何でそんな荷物多いの?」

「バッグの中、重たそうに見せたほうがバレないかなって。」

「そうなんだ。じゃあ枕でも詰めてくれば良かったのに。」

深春は私の言葉に笑った。
よいしょ、とボストンバッグを肩に掛け直して、深春はスマホを見た。

「あ、母さん達、家出たって。じゃあ電話するね。」

そう言って深春は電話をかけ始めた。
担任への連絡も、クラスの連絡網も全て、トークアプリのグループから行われる。
スマホを持っていない生徒への連絡は、基本的に担任か委員長が電話で行っていた。

「先生おはようございます。棗です。今朝起きたら熱が三十八度近くあって…。はい。はい…すみません。お願いします。」

深春が電話を切って、深呼吸した。

「成功ー!次はまふゆの番。」

「おー。」

手をパチパチと叩いた。
偉業を成し遂げた深春は得意げな顔をした。
それから十分の間を置いて、私も担任に電話をかけた。

「はい、もしもし。」

「もしもし。楠です。」

「あら。楠さん。おはよう。」

「あの…今朝からすごい腹痛で…。このまま家を出てもバスの中とかで耐えられる自信が無くて…。野外学習、欠席したいです。」

「…ご家族の方は?」

「父はもう仕事に行っていて、母も私が家に居ないから出掛けるって…。」

「そう…。分かったわ。お大事にね。」

「はい。すみません。失礼します。」

電話を切って、三秒。ふぅ、と私も息をついて、深春を見た。

「成功?」

「うーん…、ちょっと疑われたかも。」

「さすがに怪しかったかな?」

「でもまぁ、ミッションコンプリートでしょ!行こっ!」

深春が私の手を取って走り出す。
深春の家までの道の途中、同じジャージを着ている人とか、通学路で生徒が増える道を、塀とか電信柱に隠れながらコソコソと忍者みたいに駆け回った。

スパイになったみたいで楽しかった。
どこかの家から飛び出してきた猫にも二人で驚いて、笑い合った。
走るたびに、荷物が重いって深春が嘆いた。

一つに結った深春のポニーテールがぴょんぴょん跳ねて、それを後ろから見ているだけで幸せだった。

深春が振り向く。
私だけを見ている。私だけの深春。深春だけの私。

ずっと二人だけになればいい。
全部、私と深春だけの物になればいい。
本気でそう思った。
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