指先から溢れるほどの愛を
プロローグ
「美湖(ミコ)はこの後毎月恒例のいつもんとこか」

「そ!このために毎月責了、校了まで頑張っていると言っても過言ではないからね」

「ったくあんたは五年も……。まぁせいぜい頑張んな」

「……違いますー、頑張りに行くんじゃないんです、頑張ったご褒美に癒されに行くんですー」

「何その小憎たらしい顔は。……あーはいはい、もう分かった分かった。存分に癒されてくるがいいわ。じゃあね」

「おうよ!お疲れー!」


"頑張んな"の意味が分かっていながらもすっとぼけた私の顔を呆れた顔で小憎たらしいと言い放ち、手をひらひらさせて去って行く紗英(サエ)。 

"匂い立つような美人"という形容がぴったりの彼女は同じ編集部で働く同期で、私の1番の親友でもある。

彼女と別れ、会社を出た私の足取りはとても軽い。

身体は明らかに疲労を蓄積していて重たいはずなのに。

3月下旬、19時を回った空はいつの間にか宵の色に染まっていて、ふわっと髪を靡かせた風は春の匂いを乗せていて柔らかい。

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