「新藤先生の息子、来週からだって。今から緊張しちゃうわ」

雑音の中、先輩の言葉がはっきりと聞こえてくる。
私はつい、忙しなく打ち鳴らしていたキーボードの手を止めた。

「どうせ循環器か、救急に行っちゃうなら、今のうちに拝んでおかなくちゃね」
「まだ諦めるのは早いわよ! もしも、ってことがあるでしょ」
「確かにそうよね」

(今はカルテに集中。幸美ちゃんの呼吸は今日も安定、来週から……)

ブブブ……!

ポケットに忍ばせていたスマホが震え、心臓が跳ね上がった。
こっそり視界を落とすと、先輩方の注目を集める『隼人』の名前が画面に映し出されている。

(絶妙なタイミング!)

【十九時にいつもの場所で待ってる。仕事頑張って】

「了解」

ものの数秒でメッセージアプリを開き、スタンプで返事を送る。

(明日は夜勤だし、飲んじゃおっと)

浮き立った気持ちとほんの少しの罪悪感を感じながら、私は打ち込みを再開する。

循環器科の名医、新藤進の長男で研修医二年目の新藤隼人(しんどうはやと)は、私の数少ない友達だ。