一途な部長は鈍感部下を溺愛中



両手を組み、そこに顎を乗せながら爽やかに笑むこの男は、歳はやや離れているが、昔からの知り合いだった。


知り合った時から目を惹かれるようなカリスマ性を持っていて、そんな男が自分の会社を立ち上げたと聞いた時、間違いなく上手くいくだろうなと思った。


その予想通り男の会社はみるみる大手へと発展し、彼は業界で一躍有名に。


しかし、広がれば広がるほど、陽の当たらない場所も当然増えてくる。陰に隠れるように膿は生まれ、それは男一人で掃除するには骨が折れる程となっていた。


そんな折に声を掛けられ、破格の条件を提示されて俺は男の手を取った。


正直、金には困っていなかったが、自分が素直に信頼出来る男の元で働くのは、きっと楽しいだろうなと思ったのだ。


最初は社長直属の形で配属され、色々な部署を観察した後で、人事部を預けてもらうことになった。


澱みは、人から生まれる。

なら手っ取り早いのは、人事権を握ることだった。本来であればただの一部門長が好きなように人を動かすなんてのは無理な話だが、俺の場合は特殊だ。社長に何時でも意見出来るし、誰も社長の決定には逆らえない。

それは社長だから、というわけではなく、逆らわせないようなオーラが、男にはあった。彼の言うことは全て正しいのではないか。そう思わせてしまうような、不思議な力が。


かなり私情を混ぜ込んだ人事異動を決裁させたりもしたが、男は一度も苦言を呈さなかった。お陰様で、自分の根城は随分と心地がいい。


「もう大分軌道に乗ったからね。今更馬鹿なことを目論む者も居ないだろうし、どう? そろそろまた僕の下に戻ってこない?」


にこりと本気なんだかよく分からない綺麗な笑顔で誘われる。……が、これは多分、揶揄い七割、といったところだ。


「答えなんか分かりきってるでしょう」


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