あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる

神宮寺 悠斗(じんぐうじ ゆうと)
大手不動産会社である、ネクストアイランド株式会社の社長だ。
35歳でありながら、そのビジネスセンスとその手腕が、会社の上層部から認められて、異例の速さで社長に就任した男だ。


ちょうど7年前の4月。桜が風に舞い、美しい季節。
私の父親は、どこかに出かけたまま帰らなくなってしまった。


その原因は、この男がつくったのだ。


私の両親は、小さな町工場を経営していた。
小さいながらも、丁寧な仕事で売り上げも順調。
もともとは、機械の部品を作っていたが、その技術を利用して子供の玩具を作ってみたところ、見る見るうちに話題となり、海外からも問い合わせを貰うほどとなっていた。

しかし、その町工場がある地域一帯は、都市の再開発地域になり、立ち退きを迫られたのだ。
それだけなら、まだ良かったのだが、その当時ネクストアイランドという大手不動産会社の営業職だった神宮寺から新しいビジネスプランを提案されたのだ。
新築マンションに、子供が遊べるブランコ等の遊具をつけて販売するというプランだった。
もちろん、ネクストアイランドがそのプランを後押しすると約束したのだ。
父はこの男を信じて、そのために借金をしてまで、設備投資をした。
しかし、その後になってこの男は、急にその話から手を引くと言ってきた。
大手ネクストアイランドの後ろ盾が無くなった途端に、その新しいビジネスは簡単に崩れていったのだ。

父はそれからというもの、ストレスからなのか、お酒の量も増え、母に辛く当たるようになり、父と母は毎日喧嘩ばかりとなってしまった。

あんなに仲良しの両親だったのに…。

それから間もなくして、父は家を出てしまったのだ。未だに行方は解からないままだ。


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