敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
食事のお誘い



 翌日も沖縄は朝からしとしとと雨が降っていた。

 台風は予測よりもコースが大きく変わり上陸の可能性は低いそうだ。今のところ私が乗る便に欠航の情報は出ていない。

 今日は午前九時から施術の予約が入っている。牧田(まきた)さんという女性で、私にとって特別なお客様だ。

 年齢は私よりも十歳上。今年の三月まで都内のアパレルメーカーに勤務していた。

 牧田さんは、私が渋谷のネイルサロンに勤めて二年目の頃に初めてできた指名客で、彼女に私の技術やデザイン、接客がとても好きだと言われたことが自信となり、そこからばんばん指名客を増やすことができた。

 今年の四月に私が自分のネイルサロンをオープンさせたときも、牧田さんが私のサロンを友人たちに紹介してくれたおかげで固定客が増え、おかげさまで今は数カ月先まで予約で埋まっている。

 そんなこともあって牧田さんは私のネイリスト人生の恩人なのだ。

 しかし彼女は婚約者の転勤で四月に沖縄に引っ越してしまったので、私のサロンを利用したことは一度もない。
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