敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
結婚の提案
離婚について話すのは気乗りしないけれど焼肉は食べたい。
そんな悶々とした気持ちを抱えながら過ごしているうちに、あっという間に土曜日がやってきた。
お店は匡くんが決めて予約も取ってくれたらしい。午後七時に最寄り駅で待ち合わせをしているものの、この日私が仕事を終えたのは午後六時五十分。すでに時間ギリギリだ。
もっと早く仕事を終わらせる予定が施術後のお客様とつい話し込んでしまい、だいぶ時間が押してしまった。
お客様を見送ってから慌てて閉店作業をして店の鍵を閉める。私のネイルサロンは様々なテナントが入るビルの五階にあるので、エレベーターを使って下の階まで降りた。
外に出た瞬間、吹き荒れる風に体がぶるっと震える。時折吹く風がひんやりと冷たくて、あっという間に体温を奪っていった。
七分袖のシャツでは肌寒くて、薄手のカーディガンでも持ってくればよかったと後悔しながら匡くんとの待ち合わせ場所に向かって歩き出す。
今日は午後から前線の影響で雨が降りだすと、涼しい空気が流れ込み気温が急降下。日中の真夏のような暑さはどこかへ行ってしまい、秋らしい涼しい風が吹き始めた。
今はもう雨はやんでいるが、足元にはまだ水たまりが残っている。それをよけながら待ち合わせ場所に向かう。