迷彩服の恋人
第一任務*あなたの名前は…。
「何で私が…。行く気の起きないサークルの同窓会なんかに行かなきゃいけないのー!先輩ったら、ほんと最悪!どうせ自分の〝引き立て役〟に私を呼んだだけのくせに…。大学の頃から何も変わってない。私の貴重な日曜日を返せー!!」

私…望月 都(もちづき みやこ) は、激怒のあまり路上で人目も(はばか)らず感情を露わにしていた。

イタイ目で見られてる自覚はあるけど…この際そんなことはどうでもいい。

苛立ちの原因は、大学時代に所属していたサークルの先輩と、私の母にある。

ほんの1週間前に、先輩からサークルの同窓会の誘いを受けたのだけれど……食事中の着信で母に聞かれたのが不運だった。
最初の「えっ、サークルの同窓会ですか?」の一言で、状況を掴んだ母は「同窓会あるなら行ってきなさいよ。」と、先輩に勝手に〝出席〟の返事をしてしまったのだ。

そんなに…娘を外に出したかったの!?
まったく…。家で、週末に録り溜めてあるアニメを見ることの何がいけないのやら。

我が社は…知名度全国区の大手食品メーカーで、私はその営業部に籍を置き…日々かけずり回っている。
大手メーカーだから収入もそれなりに安定していて、給料の3分の1は生活費として母に渡している。
そこまでしているのだから、週末ぐらい自由にさせてほしい。

私の両親は…還暦間近という年齢で、3つ上の兄は去年入籍し…今は妻子持ちの横浜在住。
3つ下の弟は、両親や私と一緒に実家に住み仕事に精を出し…徐々に家計を助けてくれつつある。

そして、私はといえば――。

仕事と趣味の"オタ活"にエネルギーを注ぎ、3次元の男性への興味が年々薄れてきている〝干からびかけのアラサー女〟である。
自覚はあるし…反省もしているけど、〝体だけを求める男性〟や… 〝人の話は聞かなくて…自分の理想だけを求める男性〟なんて…もう懲り懲りだ。
だから〝人が集まる場所〟には極力行きたくないけど、今日は朝から母に「出てけ出てけ!」と追い出された。

――あ〜ぁ、どうせみんなの【幸せエピソード】を嫌というほど聞かせられるんだろうなぁ…。

東京は"梅雨のあいだの晴れ間"のようで、青空と赤みがかってる雲のコントラストが、憎らしいほど綺麗だった――。
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