迷彩服の恋人

*仕事モードのランチタイム

「はじめ!」

森下さんの号令とともに、各車両が配置されている所に2,3名ほど隊員さんが散らばる。

もちろん、土岐さんは私たちの目の前に止まっている車両の整備担当だ。

「これより、10(ヒトマル)式戦車の整備点検を行う。なお、本日は1330(ヒトサンサンマル)より実施の総合火力演習にて10(ヒトマル)式使用につき、時間厳守。最終点検怠らぬよう実施せよ!」

わぁー!土岐さんの号令カッコイイ!! 本当に自衛官さんだー!

「やっぱり号令いいなー。それに戦車乗りたい…。隼人が妬くから乗れないけど。」

うそー! 先輩、戦車乗りたい人だったー。

「これより実施します!」

他の隊員の方に話し終えた彼は、私達の方に振り向いて一言そう告げてから作業を始めた。

それ以降、彼は様々な工具を使い分け…車両整備を行っていた。
また、先ほど事務所で作成していた資料を片手に…整備がまだ不慣れな隊員さんへの指導もしていた。

その姿や仕草に、何度心を射抜かれたか分からない。
でもそれは…彼には内緒だ。

そして全ての車両整備を終え、彼が私達のところへ走ってきた。

「お2人とも、熱中症などは大丈夫ですか?」

「異常なぁし!」

「はは!さすがです…お2人とも。用語も使いこなしてますね。」

「あの、土岐さん…戦闘服お返しします。…はい。」

「……着なくてもよかったですか?望月さん。」

「…は、い。」

本当は、すごく着たい。
制服好きで、イベントに行く度に何かしらを着て記念撮影してる身からしたら…ウズウズしてる。
それに、今回は〝好きな人の〟っていうプレミア付きだ。

でも、〝好きな人の〟だからこそ…言えない。
私と土岐さんは…付き合ってないし、告白もしていないから。

「…じゃあ、僕のお願いを聞いて下さい。一緒に写真いいですか?僕はあなたにコレを着てほしいし、その状態で2ショットも…実は撮りたいです。その意味を込めて、あなたに預けましたよ。」

「土岐さん……。」

なんて優しい表情(かお)で笑うんですか?
期待しますよ。あなたも好きでいてくれるんじゃないかって…。

「僕のが臭くて嫌なら、後で展示ブースに行って同じものを借りて撮ってもいいですよ…どうします?」

「い、ま…撮って下さい。」

「クスッ、よかった…拒否されなくて。…桧原さん、カメラお願いできますか?」
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