これまではただ駒としての自分に与えられた役割を果たすためだけに生かされてきた。

 今日は、その駒としての役割を果たすために、格式高い高級料亭へと赴いていたはずだったのに……。

 ーーこれから私は一体どうなってしまうんだろう。

 男からのとんでもない要求に、美桜は混乱する頭で今更ながらにそんなことを案じていた。

 身動き一つとれずに瞠目したままの美桜の目に映っている長身の男は、依然、こちらの出方を見定めるようにして、物凄い威圧感と鋭い眼光を放ち続けている。

 今一度、ゴクリと喉を鳴らして唾を飲み下す。

 そうすることで覚悟を決めた美桜は、一瞬でも気を抜いてしまえば震え出してしまいそうな手を着物の左右の襟元に引っ掛ける。

 そうしてそのままぐいっと両手を下げて、襟元を豪快に寛げようとした刹那。

 廊下の方からこちらに近づいてくる足音が響きはじめた。