「わぁ、ちょっと向きを変えただけでこんなに変わるなんて吃驚〜! さっすが美桜さんだわぁ!」
「そ、そんなことないですよ。私なんてまだまだですッ」

 厳しかった寒さもようやく和らいできた、三月を迎えたばかりのある午後のこと。

 いつものようにやたらと広い和室の一室で、華道教室に通ってきた、花嫁修業中の若い生徒たちに交じって、淡いパステルブルーの小紋に身を包んだ天澤《あまさわ》美桜は生け花に勤しんでいた。

 今を遡ること江戸時代中期。当時の家元が世の中に生け花を広めたという、長い歴史を持つ華道の流派である『清風《せいふう》』。美桜は、清風の現在の家元、天澤(げん)の娘である。

  華道教室での美桜の役割は、家元である父と次期家元となる十歳離れた兄・愼《しん》のサポート役だ。

 物心がついた幼い頃から、絵本や玩具よりも華道に興味を示し慣れ親しんできた。この春免状を取得したばかりの師範の腕前を活かして、若い生徒の指導も担っている。

 今日も、三ヶ月ほど前から花嫁修業の一環としてお稽古に通い始めたという、優子《ゆうこ》が味わい深い京焼の花器に生けたばかりの花に手を加えながら談笑を交えていた。