離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
2(永嗣視点)
 一体、何をしているのだろう。


 俺は自室の布団の上で考える。
 使い慣れた和室──ここは、幼少期泊まりに来る度に使わせてもらっていた客間だ。
 この家を継いで以降は、この部屋を自室にしていて──主寝室は別にあるけれど、広すぎて使っていない。

 小さい頃怖くて泣いた欄間の木彫りの鷹を常夜灯のほのかな灯りで眺めながら、俺は思考を続ける。

 窓の外でざあっと風が吹いた。
 庭の八重桜が──白妙というらしいが──散ってしまわないといい、と俺はぼんやり思う。

 明日、鶴里さんに見せてやりたかった。

 あの桜は綺麗だから、少し心が和むのではないだろうか?


(……その、鶴里さんだ)


 俺はそっと息を吐いた。

──正直に言えば、結婚なんてどうかしている。

 どう考えたって滅茶苦茶だし、だいたい鶴里さんだって本音を言えば迷惑だろう。

……他に有効そうな選択肢がないだけで。

 本来ならば、今すぐにでも砂田を逮捕してやりたい。それだけの証拠はすぐに上がるだろう──と、数時間前に鶴里さんが泣き疲れて眠った後、呼び出した部下に渡した紙袋に思考を飛ばす。

鑑定に出すつもりだが……

あれは……あんなことが、よくできる。

 知らず、唇を噛む。悔しいと、はっきり思った。なぜ彼女があんな目に遭って黙っていなくてはならないんだ? 高校時代にも、やるせなく、怖い思いをしたというのに。


(……おそらくは、そのせいだろうな)


 あの事件……鶴里さんが植木博正にストーキングされ、あまつさえ拉致されそうになったあの事件は、俺が初めて担当した刑事事件でもあった。

 だから、俺は鶴里さんに思い入れがあるのだろう。彼女は、俺を変えてくれた。

 だから、俺は彼女を守りたいと思ってしまったのだろう。
 正攻法をとらず、こんな絡め手を使ってまで──側で守りたいと、そう思ってしまったのだろう。

 なんとなく納得して、俺は目を閉じる。
 同じ屋根の下に鶴里風香がいると思うだけで、なぜだか胸が少しだけ高鳴った。


< 20 / 84 >

この作品をシェア

pagetop