離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~
10(永嗣視点)
 風香が拐かされたと聞かされたとき、最初に浮かんだのは「砂田をどう殺してやろうか」ということだった。


『既に検問を開始しています』『付近の防犯カメラの映像から、当該車両は三鷹方面に逃走』『おい徳重、お前戻れ!』『課長、一課の課長がブチ切れてます』『Nシステムに当該車両の記録がありません。幹線道路は使用していないものかと』『徳重!』『犯人の顔ですがはっきりとは映っていません』『身長は百七十センチほど中肉中背、年齢不詳』『徳重、戻れ!』


 スマートフォンの向こうから報告と怒号が上がるたびに苛つきが増す。

 わかってる、これは俺の仕事じゃない。こんなのは二課じゃなく一課の仕事だ。
 でもいまは通常の捜査手続を行っている暇はない。

犯人が分かっているのに!? 黙って捜査を待てって!?

 その間に風香に何をされるか──想像しただけで砂田を何百回も頭の中で殺していた俺は、ブルートゥースに接続していた通話を切り、乱暴に車を停める。

 成金趣味のゴテゴテしい洋館。その厳つい門扉にはラミネートされた「取材お断り」の用紙が──その横には「砂田」の表札。俺はインターホンを一度壊さんばかりの勢いで拳で押したあと、無理矢理に門扉を押し開けた。


「ちょ、どなたですか!?」


 慌てたように家の扉から出てきた還暦ほどの女性──彼女が「はっ」としたように俺を見て明らかに怯えた。


「……砂田さん、息子さんはどちらですか?」

「と、徳重さん。ま、まさか息子まで逮捕するだなんて仰いませんよね!?」


 俺は無言で彼女──砂田孝雄の母親を見下ろす。彼女は唇をわななかせ、金切り声で叫んだ。


「だいたいっ、あの事件は主人が勝手に──」

「別件です」


 怒鳴り散らしたいのを抑え、低い声で言い放つ。


「砂田孝雄はどこですか?」

「……息子は、マンションに……うちの所有している……」
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