a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜

「何でここに……?」
「那津がいきなり別れるって言うからだろ? お前は気付いてなかったけど、スマホにGPSのアプリを入れておいたんだよ」

 那津は血の気が引いていくのを感じた。普通の恋人同士のつもりだったのに、まさかそんなことをされていたなんて……。

「……何それ……私の許可なく?」
「言ったら入れたがらないだろ?」
「当たり前じゃない」
「やっぱりな。なんかやましいことがあるんだろ? そんな気がしてたんだよ」

 貴弘の顔に怒りの様相が表れる。それでも那津には彼の言っている意味がわからなかった。

「……何言ってるの……? やましいことなんかないわよ! もういい……話しても埒があかない。あなたとは別れたの、早く帰って」
「そんなの一方的な別れだろ! 俺は納得してない。なぁ那津、お前浮気してたって本当か? その男と付き合うから別れるのか? だったらちゃんと俺に謝罪しろよ!」

 那津は愕然とした。謝罪しろ? するのはあなたの方でしょ? 那津の中で怒りが爆発した。

「……何言ってるの⁈ 浮気したのは貴弘の方でしょ? 知ってるんだから!」

 明らかに貴弘の顔色が変わった。バレていないとでも思っていたのだろうか。那津は悔しくなって下唇を噛んだ。
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