a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜

* * * *

 二人で歩き始めてすぐに周吾は立ち止まると、どこか動揺したような様子で那津の顔を見つめた。

「……同情で声をかけたわけじゃないから」
「……じゃあどんな気持ちだったの?」
「励ましたかったんだ。海で落ち込んでいる那津さんの姿が昔の自分と被ってさ、力になりたいって思った。でもまさかここまで俺と同じとは思わなかったけどね」

 さっき下野さんも言っていたけど、たしかに瀧本さんからは裏表の感情が感じられない。きっと心からそう思っているんだと思う。

「あの……周吾……くん、今日は助けてくれてありがとう……」

 周吾は那津の手を両手で握ると、照れたように頬を赤らめた。

「あのさ、那津さん……良かったらこれから俺の部屋に来ない? せっかくだからお喋りでもどうかと思って」

 裏表がない人が、頬を赤くして『俺の部屋に来ない?』って言ったら、意味は一つしかない。

 那津は戸惑いながらも、否定する言葉も肯定する言葉も見つからなかった。

 きっと自分の感情次第。彼とそういう関係になることをどう思っているか……那津は考えを巡らせてから、小さく頷いた。
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