a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
「……どういうこと?」
「那津さんをおとすのが容易いんじゃなくて、どうしようもないダメ男を捨てて、新しい恋を始めるのが容易いってこと」

 そして那津の手を取り口づける。その瞬間那津の胸が高鳴り、体の奥がキュッと熱くなる。上目遣いで見上げた周吾の顔を直視できなかった。

「まだ俺のこと信用出来ない?」
「……だって……まだ出会って三日だよ? そんな簡単に恋が始まる?」
「でも俺のこと、意識はしてる?」
「……内緒」

 すると周吾は苦笑いをしながら那津の手を離し、両手を上に上げた。

「わかった。じゃあ俺からは何もしない。那津さんが俺を求めてくれるまでは何もしないよ。その代わり俺のスイッチが入ったらもう……離すつもりはないから覚悟してよ」

 彼はじっと那津の目を見つめ、逸らそうとしない。その目にはいつもと変わらない優しさがありながら、意志の強さも感じる。

 それって……私次第でどういう状況にもなれるということ?

 那津は周吾の手を見る。まだ出会って三日。こんな気持ちになるなんておかしい……それでもこの手を求めたくなる。私の手を引いて、優しく触れてほしい。

 あの人よりも、瀧本さんに身を任せたいと思っている私がいるの。

 もし瀧本さんにとって遊びでもいいじゃない。だって私がここにいるのは一週間。今だけでもいいから、彼に身も心も愛されたい……。
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