魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

ミッション遂行

◆◆◆


(アイリ様ーーー!!! 俺は連日の試練で萌え死にしそうですぅぅぅ!!!)

 エブリア公爵令嬢との話し合いのあと、落ち込んだ様子のアイリ様がまた俺の胸で嘆いている。
 それどころか、顔を擦りつけてこられて、可愛さMAXだ。

(抱きしめていいですかぁぁぁ!!! いや、ダメか……)

 昨夜の試練も大変厳しかった。
 犬の姿だったからどうにかごまかせたが、頬を合わせられ、鼻に首筋を押しつけられ、興奮しないわけがない。
 アイリ様のいい匂いのする首筋をベロベロ舐め回したい、いや、華奢な鎖骨も、できれば全身舐め回したい。
 そんな衝動をぐっとこらえて、鼻息を荒くしただけで済ませた俺を褒めてほしい。

 人の姿のときはもっとヤバい。
 冷静になれと自分を抑えて、せめてもとその髪をなでた。
 やわらかで絹糸のように繊細で美しい髪に触れさせていただけるなんて、俺はなんて幸運な男なんだろう。
 うっとりしながらも、考える。
 
 アイリ様の魅了魔法のせいで、国王にまでおかしな現象が起きているというが、やっぱりアイリ様が悪いことなどひとつもない。勝手に魅了にかかって、おかしくなっているなんて、王族のわきが甘いだけだろう。

(そもそも本当に魅了魔法だけのせいなのか?)

 可憐で美しく心の清らかさが表に滲み出ているアイリ様に、国王さえもぼーっとなってしまうのはおかしくはない。
 でも、仮にも王族とあろうものが、そんな簡単に魅了魔法にかかるのだろうか?
 それに、ずっとアイリ様と一緒にいる俺が魅了にかかっていない。なんだかチグハグで変な話だ。
 まぁ、獣人には魔力がないから、魔法のことなどわかるはずもないが。

 「なんだか怖いわ」と不安そうにされているアイリ様に、すかさず「俺が必ず守ります」と告げると、愛らしい笑みを返された。
 それだけで、俺の世界は薔薇色になり、些末なことなど、どうでもよくなる。 

「明日、殿下に護符をお渡しするわね!」

 健気に言われたアイリ様をひたすら応援してお守りするだけだ。



 翌日、アイリ様は、王太子殿下に護符を渡すために、こわごわと隣のクラスに伺われた。
 俺の袖を握りしめるアイリ様が可愛らしい。

 当初、殿下を呼び出すなんてできないし、どうしようと悩まれていたようだったが、アイリ様が戸口に姿を見せただけで、王太子が寄ってきたので、簡単だった。
 放課後に時間をもらいたいとおっしゃったアイリ様に、なにを勘違いしたのか、喜んだ王太子がアイリ様を抱きしめようとした。

(俺のアイリ様になにをするんだ!)

 当然、アイリ様を後ろに引っ張って、それを阻止する。
 腕を空振り、一瞬、俺を睨みつけた王太子であったが、気を取り直して、澄ました笑みを浮かべる。
 
「それでは、放課後に私のサロンで待っている」

 にやけた王太子に、きれいな礼をとったアイリ様。素敵です。





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