魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

浄化魔法

「アイリ様、ちょっと来ていただけるかしら?」

 昨日と同じセリフで、私のクラスに現れたエブリア様は扇子で外に出るように指し示した。サロンへ行きたいらしい。
 昨日と違って、その表情は険しい。
 そんな顔のエブリア様はちょっと怖くて、ビビリながらついていく。

(なにがあったのかしら?)

 サロンに着くと、エブリア様は私を座らせて、お茶を出してくれた。
 紅茶を飲んでエブリア様も落ち着いたようで、ふぅと溜め息をついた。

「スウェイン様がまたおかしくなってしまわれたの」
「えぇ!」

 正気に戻られたと喜んでいたのに、一晩で?
 私は驚いて、エブリア様をマジマジと見てしまった。

「でも、今日は王太子殿下にお会いしていませんが……」
「そうなの? やっぱりなにか変なのよね。今日のスウェイン様は、あなたに魅了されているってより、私を疎んで遠ざけているようだったし」
「遠ざけて?」

 悲しげに溜め息をつくエブリア様。
 王太子殿下に心ない言葉を告げられたのかもしれない。
 おかわいそうに。

「失礼いたします。発言してもよろしいでしょうか?」 

 そこへオランが話に割り込んできた。
 使用人が主人たちの話に口を挟むなんて普通はしないので、よっぽどのことかと彼を見つめた。

「オラン、なにかしら?」

 エブリア様が鷹揚にうなずくと、オランが話しだした。

「今日の王太子殿下のご様子を見ていて、思い出したのです。隣国ダルシーナの秘法のことを」
「ダルシーナの秘法?」

 私はもちろん、魔法に関して詳しそうなエブリア様も初耳だったようで、オウム返しにつぶやいた。

「はい。人の精神に働きかけて操るという呪いのようなものです。でも、通常は魔力の高い王族のような方はかからないはずなんですが……」

 ちらりとオランに見られて気がついた。

「私の魅了魔法のせい、なの?」

 普通ならかからないはずの呪い。それが普通の状態でなければ、もしかして……。

「おそらくは。魅了魔法で精神障壁が低くなったところにつけこまれたのでしょう」

(あぁ、私はなんということを……)

 意図的でないとしても私の存在がなければ、こんな事態になっていなかったはずだ。
 申し訳なくて、目を伏せた。

「アイリ様、スウェイン様に浄化魔法をかけてくださらない?」

 落ち込む私にエブリア様が言った。
 ハッと見返すと、すがるような瞳でエブリア様が続けた。

「呪いのようなものなら浄化できるはずよね?」

 浄化魔法は、毒、疫病、呪い、その他、人の精神にマイナスするようなものを浄化する。
 そうよ。私にしかできないことだわ。
 
「やってみます!」

 私の撒いた種なら、私が回収しなきゃ!
 グッと拳を握りしめて、自分を鼓舞した。





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