魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

浄化の効果

 エブリア様のサロンに伺うと、笑顔で出迎えられた。
 豪華な昼食までご用意してくださっていた。

「それでどうだったのかしら?」

 優雅にカトラリーを使われながら、エブリア様は気が急くように聞いてこられる。
 美味しい料理に夢中になっていた私は、喉を詰まらせそうになり、カイルが慌ててお水を差し出してくれた。

「ゴホン……王太子殿下はやはり呪いにかかっていらっしゃったようです」
「やっぱり! 魅了魔法の影響だけじゃないと思っていたのよ! スウェイン様は操られていたのね! そうじゃないと私にあのようなこと……うぅっ……な、泣いてないんだから!」

 エブリア様は広げた扇子で顔を覆った。
 王太子殿下に冷たくあしらわれたことを気にされていたようだ。

 最初は魅了状態じゃなかったこと、そばにいるうちにだんだん魅了されてきたみたいで、護符をお渡しても完全には治らなかったこと、浄化魔法を使って初めて殿下の様子が正常になったことを説明した。
 話していくうちに、エブリア様もしだいに冷静になられたようだ。

「そう……」

 私の報告が終わると、エブリア様は浮かない顔で料理をつついた。
 呪いが解けたのにうれしくないのかしらと思ったら、エブリア様はもっと先のことをお考えだった。

「これで、何者かがこの国に災いをもたらそうとしているのが決定的になったわね」
「あ……」

 魅了だけだったら、事故のようなものだった。でも、それを利用して、呪いをかけた者がいるとなると話は別だ。

(誰がなんのために?)

 この国は周囲を険しい山と海に囲まれて、他国と直接接している土地はない。飛び抜けた資源もないので、他国から狙われることもなく良好な関係を築いていたはずだ。
 隣国のダルシーナとの国境も山を越えたところで、領土争いをしているわけでもない。
 国内だって、派閥はあるにしろ、貴族間の目立った争いもなく、王政も安定し、平和なはずだった。
 
「疫病も流行りだしたというのに、タイミングが悪いわね」
「疫病ですか!?」

 次から次へと起こる非常事態に、目が回りそうだわ。

「まぁ、ストーリー通りだけど……」
「ストーリー?」
「なんでもないわ。こっちの話」

 独り言みたいにおっしゃった言葉を聞き返すも、教えてはいただけなかった。

(疫病が流行っているなら、私は聖女として対応しなくてもいいのかしら?)

 今のところ、なにも聞いていない。
 私の力では大したことができないからかもしれないけど。
 そんなことを考えていたら、次のエブリア様の言葉に、私はうなだれた。
 
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