魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

聖女の水

「どうすればいいのかなぁ、カイル?」

 私はベッドの上で、犬の姿のカイルをなでながら、つぶやいた。

「ワオン」

 なぐさめるように、カイルは湿った鼻を私の頬に押しつけた。ぺろりと頬を舐められる。

「ふふっ、くすぐったいわ」

 いたずらされないように、ギュッとその首元に抱きついた。ついでに、首元から背中に沿ってワシャワシャなでる。

「キューン」

 カイルもくすぐったかったのか、ジタバタして、フンフン鼻を鳴らした。
 尻尾がパタパタ振られていたから、本気で嫌がっているわけじゃないみたいなので、気にせず、頬を擦りつける。
 日向の匂いがするカイルとこうしていると落ち着く。


 身動きが取れなくなって数日。その間に疫病の噂は学校にまで届き、騒然となっていた。
 同時多発的に発生した疫病は、近隣の町や村にまで広がってきているのに、指揮系統が乱れていて、有効な対策が取れていないようだった。

(それも私の魅了と呪いのせい……)

 責任を感じて落ち込む。

『そんなときの聖女でしょ?』
『早く疫病を治めに行けばいいのに』

 学校ではそうささやく声が聞こえるようになった。

 私も無力ながらできることがあるかもと、勇気を出して、陛下に申し出てみた。
 でも、陛下は笑って、『アイリ嬢は優しいな。その時が来たらよろしく頼むぞ』と取り合ってくれなかった。
 そんな悠長なことを言っていていいのかしら?
 無力な自分が情けない。

 一方、王太子殿下の寵愛を受けていると思われたのか、近づいてくる令嬢もいた。

『エブリア様の横暴にも困ったものですね』
『アイリ様とずっと仲良くしたいと思っていたのです』

 手のひらを返すようにそんなことを言われても、困るのはこっちだ。

『エブリア様はお優しくて可愛らしい方ですよ?』
『かばわれるなんて、アイリ様の方がお優しいですわ』

 反論すると、興ざめした顔をされるのはなぜだろう?
 エブリア様の取り巻きは減ったみたいだ。
 凛とした横顔を遠目に見ることがあっても、近寄ろうとすると、側近の誰かに阻まれる。
 エブリア様にいろいろ相談したいのに。


「うぅぅ、カイル〜、どうしたらいいの?」
「クーン」

 そうやって嘆きながらも、カイルのポカポカの体にくっついていると心地よく、いつの間にか、そのまま眠ってしまっていた。
 目覚めると、カイルのモフモフの毛に包まれて横になっていた。
 なんて素敵な目覚め!
 お腹側のやわらかい毛を朝からもふもふと堪能してしまった。

(あら? この熱くて硬いのはなにかしら?)

 毛の中にうずもれたなにかをギュッと握ると、カイルが跳ね起きた。
 
「ワフォーン」

 ピョンと跳んで私から距離を取ったカイルがブンブンと首を振った。
 触っちゃいけないところだったらしい。

「ごめんね、カイル。もうしないから、こっちに来て」

 うなだれたカイルがそろそろと戻ってきた。
 もう一度、ごめんねと謝って、抱きついた。
 



< 25 / 79 >

この作品をシェア

pagetop