魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

密会

 王宮の部屋に戻ってから、私はエブリア様の手紙をカイルに見せた。
 図のルートを見ると、窓から中庭に出なくてはいけない。
 私の与えられた部屋は二階だったけど、すぐそばまで木が迫り出して生えているから、そこに跳び移れば下りられるかしら?
 二階といっても一階が半地下だから、そんなに高くない。
 そう思って、窓の外を確認していたら、背後にカイルが来て、身を乗り出し、下を覗き込んだ。

「これくらいなら、アイリ様を抱えて飛び下りることができますね」
「えっ、飛び下りるの?」

 こともなげにカイルが言うので、彼を見上げた。
 カイルは静かな瞳で私を見返してうなずいた。
 髪の間から見える深い青の色に吸い込まれそう。
 カイルの顔を見ると、ちょくちょく状況も忘れて見惚れてしまう。
 かっこいい。

 細身ながら、しなやかな筋肉質のカイルの体なら、そんなことも可能なのかも。
 小柄だとはいえ、いつも軽々と私を抱き上げているし。

「でも、傷は大丈夫?」
「もうなんともありません」

 カイルの言う通り、一晩寝たら治ったようで、朝起きたときにはケロッとした顔をしていた。
 でも、カイルはただでさえ感情を表さない。
 
「本当に?」

 ペタペタと体を触って確かめてみても、カイルは平気な顔でシャキッと立っていたから、本当によくなったみたいで安心した。
 よかったと抱きついた。


 なるべく飾りの少ない目立たない色のドレスに着替えて、エブリア様との密会に備える。
 待ち合わせの時間の少し前に、カイルが私を抱きあげた。
 彼は窓の下を確認すると、前触れもなくひょいと飛び下りた。

(きゃああああああ!!!)

 突然の浮遊感の直後、落下し始めて、悲鳴をあげないようにカイルの肩に顔を押しつけた。

 トンッ

 カイルは危なげなく膝を曲げて着地する。
 芝生の植えられた地面だったから、軽い音しかしなくてほっとする。
 それでも、私は心臓がばくばくしていて、頭はくらくらしていた。
 カイルがそっと立たせてくれたけど、足が震えている。

「このまま抱きあげて走った方がいいですね」

 再び私を抱きあげたカイルは足音を抑えながらも、西塔を目指して中庭を駆け出した。
 
(やっぱりかっこいい)

 綺麗に刈り込まれた植栽の間をカイルが疾走する。
 暗い中で見る庭はちょっと不気味。

(でも、カイルの腕の中なら安心だわ)

 私はカイルの首に掴まって、運ばれていった。




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