魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

卒業パーティー

 私たちが王都に着いたのは、ちょうど学校で卒業パーティーが行われる日だった。
 なるべく多くの場所を浄化しながら、帰っていたので、ずいぶんギリギリになってしまった。
 
(それにしても卒業自体はまだ半年先なのに、この時期に卒業パーティーなんて変よね)

 でも、昔からそういう慣習だそうだ。
 昔は、卒業間際になると、婚約して学校に来なくなる令嬢や家督を継いだり手伝ったりするのに忙しくなる令息が多かったので、この時期に行うことになったらしい。

 今日はオランが馬車内に乗って、これからの段取りをいろいろ教えてくれていた。

「……まもなく王立学校に着きます。パーティーが始まる頃合いなので、一刻も早くパーティー会場に行って、浄化魔法を発動してください」
「わかったわ。でも、急ぐなら、学校が見えたところで浄化してもいいんじゃない?」

 私はうなずきながらも疑問に思った。
 ここまで来る間にしたように、遠くから学校全体を浄化してもいいのにと思ったのだ。

「いいえ。あなたが……聖女様がいない状態でいきなり我に返っても混乱するだけです。わかりやすく聖女が浄化を施したというパフォーマンスが必要なのです」
「なるほど〜、そういうものなのね」

 確かに、謎の光のあと、操られていた状態から元に戻っても、訳がわからないし、エブリア様も事態を掌握しにくいのかもしれない。
 さすがエブリア様の計画は詳細まで考えられていた。

(でも、一ヶ月も王都を留守にしていた間に、どんな状況になっているのかしら? エブリア様は無事かしら?)

 オランはときどき手紙や伝言を受け取って、だいたいは状況を把握していたみたいだけど、眉をひそめて読んでいた様子からは、事態が良い方向には向かっていないのはわかった。

 エブリア様はなぜかこのパーティーで王太子様が婚約破棄すると確信しているらしい。

(そんな重要なことをこんなパーティーでするかしら?)

 王立学校の卒業パーティーとはいえ、王家と公爵家とで交わされた婚約をそんな非公式な場で破棄するなんて、違和感しかない。

 それでも、急いで来てほしいとエブリア様に言われたら、全力で応えたい。

「それでは、馬車が門に着いたら、俺がアイリ様を抱えて走りますね」
「うん。ありがとう、カイル。よろしくね」

 私が走るより、カイルが私を抱えて走るほうが断然速い。本気で走られると、抱きついていても怖いほどのスピードだ。


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