華夏の煌き
6
51 視察
 王太子の曹隆明は側室の申陽菜と数名の供を連れ、各機関を視察する。そう遠くない未来に、隆明は王となり政を行うようになるだろう。
 こういった視察にはいつも北西出身のお気に入りである周茉莉を連れていたが、彼女は歌舞や衣装を取り扱っているところ以外はつまらないと言うので、今回は申陽菜を連れている。王太子妃の桃華は相変わらず体調が悪いということで、外出をしたがらない。

 申陽菜はここぞとばかりに隆明の機嫌をとろうと、太極府や医局でも関心を示し感想を述べる。

「殿下、医局は優秀な薬師が多いみたいですわね。太極府も厳かで素晴らしいと思います」
「うん、どちらも国にとって大事な機関だからな」

 当たり障りのない会話を交わしながら、隆明は最後に軍師省へ訪れる。

「どうかな。今年の見習いは」
「もちろん、どこの見習いよりも上等な者がそろいましてございます」

 一番の高官僚、大軍師の馬秀永は濁った眼で、どこかわからぬほうへ視線を向け話す。戦国時代ほどの大きな活躍がみえない軍師省だが、国の最高機関として存在している。そのため気位の高いものが多い。王の臣下として次ぐ最高権力者は宰相であるが、この大軍師はそれに匹敵する。

 古い時代には大軍師から、宰相になるものもあったが、今はこの軍師を目指すものは偏りすぎていて仁徳に乏しい。学問や知識、創意工夫に満ちてはいるが、知力のエキスパートはどこか人柄に問題も多かった。勿論、太極府や医局などの専門的な機関には、世捨て人のようないわゆる変わり者が多かった。

 他の専門機関に比べ、軍師省は活発な議論をなされることも多いので、案外賑やかだった。意見が対立しているのかたまに怒声が聞こえてくる。

「こちらは活気があるのですね」

 荒げた男の声に、申陽菜はその細い体をより細く縮めるようにして隆明に寄り添う。

「そうだな。ここは与えられたものを受け取るだけではなく、発揮するところであるからな」

 間違うと場末の酒場のような言い争いにも受け取れる。軍師、教官、助手と順にみながら、隆明は彼らの熱気に当てられたかのように己も軽い興奮状態になっていた。

「良いな……」

< 106 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop