華夏の煌き
8
71 公主たち
 側室の中で最も可憐だと評価の高い申陽菜の住いは、多種多様の花が植えられており、年中、常春のように感じられる。王太子の曹隆明以外の男で、王族の夫人たちの住まいを出入りできるものは、医局長の陸慶明のみだった。
 ほっそりとした白い手首を差し出し、申陽菜は目を細めしなを作り「どうかしら?」と甘い声で慶明に尋ねる。

「残念ながら懐妊の兆候はありません。しかし、とても健やかであられます」
「ふーん」

 つまらなさそうな表情で、すっと腕を下げ着物の袖を降ろした。ほっそりした白い手足を見せびらかすように、できるだけ柔らかく薄く透ける着物を何枚も重ねている。それぞれの着物には違う香料を焚き込め、複雑で怪しく淫靡な雰囲気を演出している。

「何か気になることはありますか?」

 慶明は軽く問診し、申陽菜の顔色を眺める。特に何も悪いところはないだろうと診断し、いつもの彼女のために処方した肌を滑らかに保つ薬を侍女に渡す。

「ねえ、陸どの。杏華公主のお加減はいかが?
「それは、その……」

 王太子妃、桃華が生んだ第一公主の杏華は生まれつき身体が弱く、成人しても丈夫にならなかった。当時の医局長の見立てでは成人に達することができないと、秘かに慶明にだけ告げられていた。今、病みがちではあるが、なんとか生き長らえているのは、慶明の滋養強壮剤によるものだ。それでも、常に油断できない虚弱体質だった。流行り病などにかかってしまえば、打つ勝つことはできぬだろう。

「相変わらずってことね」
「は、はあ」

 もしも杏華公主になにかあれば、申陽菜の産んだ晴菜公主が第一後継者になるのだ。そうなれば王太子妃になることは桃華がいるので叶わなくとも、王太子妃と同等になるだろう。
 慶明には、申陽菜が何を願っているかもちろん分かっている。彼女は贅沢趣味なので立場が上がれば、生活水準を上げさせようとするに違いない。善政を敷いてきた曹王朝が、妃一人の贅沢で倒れることはないが、王朝の存続のために妃の散財は常々懸念されていることだ。

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