華夏の煌き
81 王位継承

 王太子だった曹隆明が王に即位すると、王とその妃たちはみな『銅雀台』に越してきた。都で一番高い建物であるここへの引っ越しは大変な時間と労力を要した。
 何段もある石の階段を医局長の陸慶明はため息をつきながら見上げる。もう若くない彼にとってこの段数は億劫だった。若いころなら楽々楽しく上っただろうと、若かりし頃の身軽だったころを懐かしんだ。今は、足も重く、気も重い。階段下で待機している屈強な石段籠運びに、金を渡し運んでもらうことにした。一見上がり下がりに不便だと思えるこの高さは、力と体力を持つ者にとって適切な職場だった。ここを上がる者は王族や国家の要人である。一日一人でも運べば十分な賃金が発生する。いたるところに高祖の配慮があった。

 籠は快適で歩くよりもずいぶん早く到着する。籠を降り改めて『銅雀台』の高さを思い知る。都全体を見渡せる高さは、まさに王者の住まいにふさわしい。

「ここから庶民を見下ろしておられるのか」

 医局長にまで上り詰めた慶明であるが、この高さからみる景色は圧巻だ。今日はここに住まう、曹隆明と妃と未婚の子供たちの定期健診にやってきた。気が重い診察は、側室の申陽菜だった。

 今日も、彼女は自分の娘を王位につける算段の相談をしてくるだろう。曹隆明が王位についたので王太子を立てねばならない。候補になるのは王妃が生んだ第一公主の杏華で、すでに婿も取っている。虚弱な彼女は一度懐妊したが流れてしまい、その後妊娠の兆候はない。慶明の見立てでは、杏華公主が子を持つことはもう無理だ。そして近々、申陽菜の娘、晴菜公主が婿を迎える。彼女は健康的なので十分懐妊できるだろう。

 女性が王位継承者になるとき、世継ぎを産むためにやはり太極府が選んだ婿を入内させる。男児を孕ませることができなければ、また別のものが婿入りすることになっている。

 申陽菜は杏華公主が邪魔で抹殺したがっていたが、彼女にもう妊娠能力がないとわかると抹殺を取りやめる。もう敵は杏華公主ではない。今度の矛先は、周茉莉の娘で第三公主である、百合公主だ。晴菜公主に子ができなければ、継承権は百合公主に移っていく。邪魔ものを消すことと、晴菜公主に男児を産ませる相談をされるとわかっている慶明の足取りは重かった。

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