華夏の煌き
11
101 柳紅美の結婚
 一人で暮らし始めた星羅は、いっそう仕事に精を出す。各地の飢饉の被害状況を把握し、物資を届けたり、暴動を抑えたりまた各諸国への外交も行った。
 華夏国内の美術品の多くが外国へと流れていったが、おかげで国民の被害が少なくて済んでいる。王族の衣装も今年は新調されることがなかった。

 王の側室である申陽菜が死去する。流感にかかりあっという間に亡くなってしまった。飢饉の前から食事制限をし、美貌を保とうと必死だった彼女は、抵抗力も体力も失っていた。葬儀は素早く地味に行われる。
 医局長の陸慶明は、申陽菜の死にほっとしている。杏華公主のもとへ孫の徳樹が養子に入ったことを、知られる前に死んだからだ。もし邪魔をしようとするならば、また直接手を下すつもりでいた。しかし、息子の明樹が、自分の作った薬品によって死亡したので、申陽菜を薬殺する気力が失われていた。
 多くの開発した薬品で生きる者もいれば、死ぬ者もいた。王太后、蘭加を薬殺した天罰が、息子の死なのだろうと慶明は結論付けている。

 暗い時勢の中、明るい話もある。柳紅美と許仲典が結婚したのだ。仲の悪かった二人だが、地方の暴動のいざこざを平定に行ったとき、民に襲われた柳紅美を許仲典がかばった。深手を負った許仲典を柳紅美が看病したらしい。許仲典の面倒を見ている間に、彼の優しさや忠義心に触れいつの間にか柳紅美は恋をしていた。彼女の愛の告白を許仲典は当然拒む。柳紅美はあきらめなかった。もともと天邪鬼なのか、自分を厭うものに執着してしまうたちのようだ。二人の結婚は柳紅美に押し負けた形らしい。
 派手な式は上げられなかったが柳紅美はとても幸せそうだ。とげのある物言いは相変わらずだが、星羅に敵意を向けることがなくなった。  

「蒼にいさまも早く結婚したらどう?」
「国が落ち着いたらな」
「ふーん。早くしないと財務省の袁殿にもってかれるわよ?」
「袁殿? 幸平か?」
「知らないの? あたしたちの結婚式で星羅さんを見初めたらしいわよ」
「そうか」
「そうかって」
「星羅が良いと思うなら良いのではないか」
「はあ……」

 もう郭蒼樹は、星羅に興味がないのだろうかと、柳紅美はそれ以上突っ込まずに下がる。紅美は許仲典と結婚してからというもの、満たされているのかやけにお節介になっている。

< 223 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop