華夏の煌き
3
21 陶工夫婦
 宿屋に住まいが見つかるまで滞在させてほしいと頼むと、主人は快く承知してくれた。前払いできちんと部屋代を支払う上客の晶鈴を断るはずがなかった。行き交う人は多くても、案外宿にちゃんと泊まるものが少ないらしく、部屋が完全に埋まることがないらしい。一番奥まって静かな部屋を選ばせてもらった。ロバの明々も一所に落ち着く気配を感じたのか、のんびりした顔がさらに間延びしている。

「たまに散歩させなきゃいけないわね」

 馬小屋に預けっぱなしもよくないだろうと、朝、一緒に出勤することにした。都に比べると勿論小さい町だが、活気はすさまじい。洗練されていてシックな都とは違い、サイケデリックなカラフルさとモードがある。
 用意した紺色の布を小さな丸い机に掛け、座って客を待つ。隣ではロバの明々がのんびり草を食べている。前を通り過ぎる人は多く、チラチラ晶鈴を見るが腰掛ける者はいない。

「そりゃあ。そんなに占いが必要な人もいないわよね」

 半日じっと座っていたが誰も来ない。こんなものかと思っていると、ロバの明々とは逆隣から声がかかった。

「あの、占い師さん?」

 声のほうを向くと、滑らかで甘栗のような艶やかな茶色の肌に、黒い眉と瞳を持つ女性が微笑んでいる。彼女の隣には重ねられた白い器が大量にある。

「え、ええ。あなたは陶工?」
「うふふ。主人がね。私は店番なの。どうせこのおなかじゃ身動き取れないし」
「あら、お仲間ね」
「まあ! 子供たち同い年になるわね」
「そうね」

 お互い自己紹介をする。彼女は朱京湖と名乗り、もっともっと南方から来たのだという。おっとりした雰囲気がなんだか曹隆明を思わせ懐かしさと親しみを感じた。そのうち彼女の夫が帰ってきた。がっしりとした体格に鋭いまなざしを持ち、やはり南方出身なのであろう、浅黒い肌に墨のような黒い髪と瞳を持っている。

「あなた、占い師の胡晶鈴さんよ。お友達になったの」
「はじめまして」

 男はじっと一瞬晶鈴を見据えた後名乗る。

「朱彰浩と申す」

 一言だけだった。ぶっきらぼうな雰囲気だが、悪意も敵意も感じられないので晶鈴はとくに悪い印象も持たなかった。

「一人で平気だったか?」
「ええ」

 朱彰浩は妻の京湖には優しいまなざしを向け、そっと頬と腹をなでる。愛情深い様子に晶鈴は好感を抱いた。

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