望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
22.一線
 レイモンドが「川で魚をとってくる」と言う。どうやら夕飯の調達のつもりらしい。きっと、昔のここでの生活を覚えているのだろう。その言葉にカレンは「気を付けて」とだけ返事をした。
 さて、レイモンドはどのような姿で魚をとってくるのだろうか。それを想像したら自然と笑みがこぼれた。

 だが、カレンの気持ちは少々複雑なものだった。レイモンドには「驚かないのだな」と言われたが、あの子がレイモンドだったという事実には驚いている。だが、言葉にできない、何とも言えない気持ち。

 目の前には、温もりを失った液体が入っているカップがあった。それを飲んだとしても冷たいとしか思えないだろう。はあ、とも、ふうとも言えないような息を思いっきり吐いた。
 とにかく恥ずかしいという思いもある。いや、むしろ恥ずかしい。だって、あれは黒豹だったのだ。ただの黒豹だったから、自分の気持ちを全て愚痴っていた。この家を離れてからの本当の気持ちを。そして大きな黒豹がレイモンドだとしたら、小さな子は間違いなくアドニスだろう。確認したくはないけど、確信した。

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