望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
7.過去
 侍女のメアリー、執事のジョンソン、そして義弟のアドニス。この三人は信頼できる人間である、とカレンは分類していた。あとの人間からは悪女であると思われてもいい。むしろ思われた方がいい。カレンに対して警戒心を解いていない使用人たちもいる。それはそれで都合がいいというもの。
 レイモンドは、以前のように長く屋敷を空けるようなことはなくなった。アドニスが何か言ったのだろうか。たまに、休みの日もあるようで一日中屋敷にいるときもある。だが、それでもカレンと顔を合わせるのは食事のときのみの必要最小限。夜も、隣の続きの扉が開くようなことはなかった。それはそれでよかった。

 その日の夜、カレンは夢をみた。それは昔の、母親と二人で暮らしていたときの夢。
 カレンの母親はダレンバーナの王宮魔導師だった、と聞いている。聞いている、というのは実際にその姿を見たわけではないから。気が付いたら、山奥の小さな家で、二人で暮らしていた。父親について聞いてみたこともあったが、母親は悲しそうに笑っているだけだった。だから父親のことはよくわからなかった。
 望まれない子だったのか、ということに気が付いたのは王宮に引き取られてからだが、それでも母親は優しかった。母親だけがカレンの味方だった。

< 60 / 269 >

この作品をシェア

pagetop