孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
そんな彼に胸がきゅんと締めつけられるのを感じながら、眉尻を下げてぎこちなく笑ってみせる。


「ありがとう。こんなところで剛を殴ったりしたら、霧生君もただじゃ済まなくなる。それじゃ私が困るから、ここは我慢して」

「…………」


それでもやはり、霧生君は不満げに唇を噛んだ。
もう一度人混みを見遣り、やるせなさそうに目を伏せ、かぶりを振る。


――痛いくらい、伝わってくる。
霧生君は私のために剛に怒りを向けてくれて、私が困ると言ったから、自分を律しようとしているのだと。
そんな風に、私を大事に守ってくれようとする人に、私は今まで出会ったことがない。
霧生君との結婚継続に、まだまだ思うところは多々あるのに、ほんのちょっとくすぐったくて嬉しい気持ちは否めない。


「ええと……お、お腹空いたね!」


私は、明後日の方向を向いた。


「わ、考えてみたら、私もう半日以上なにも食べてない。そりゃ、空くはずだわ」


わざと明るく声を張り上げ、キョロキョロと辺りを見回し……。


「たこ焼き! 霧生君、たこ焼き食べたい。行こう!」

「え? あ、ちょっ……」


虚を衝かれた様子で声を挟む彼に構わず、その腕を取って、境内とは逆の屋台に向かってぐいぐいと引っ張っていった。
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