わかってるのに、寂しいと思う自分を無視できず、唇を噛む。


「でも」


彼が続けた逆接の言葉に導かれ、おずおずと目線を上げた。


「無事終わったら、ゆっくり二人で過ごしたい」

「え……」

「ちゃんと君と話がしたい。だから……帰ってきて」


先ほどのカンファレンスの時と同じ力強い瞳に、悲壮とも言える決意が滲み出ているように感じた。
ドキドキと鼓動が加速するのを自覚して、私は胸元でスクラブを握りしめた。


「あ……」


ちゃんと返事したいのに、声が喉に張りついて上手く音にならない。
引っかかって掠れた声を消え入らせる私に、霧生君は目を細めて……。


「じゃ」


私の肩をポンと叩き、横を擦り抜けていった。
彼が残した空気の振動が柔らかい微風となって、私の頬を、心をくすぐる。


「っ、きりゅ……」


弾かれたように振り返り、声を絞って呼び止めようとして、私は自分を制した。
そうだ。
今は、このオペに集中――。


一色先生に言われた通り、今まで経験したことがないほど難しい、気の抜けないオペになる。
ほんの少しでも浮ついた気持ちでいたら、期待された戦力どころか、足手纏いになりかねない。
私は、彼の名を口にしたい本心を必死に抑えて、遠ざかっていく逞しい背中を見送った。