孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
問い質すうちに、怒りが込み上げてきた。
それでも、声を荒らげずにいられたのは、周りを行き交う人が好奇に満ちた目で、チラチラ振り返っていくのに気付けたからだ。
いつもの剛なら、慌てて私を陰に連れていって、『人聞き悪い言い方するなよ』と宥めようとしただろう。
ところが。


「浮気じゃない。俺もう、霞じゃなくてあの子の方が好きなんだ」


彼はムッと口を曲げて、開き直った。


「え……」

「霞は、いつも俺に干渉して小言ばかり……彼女じゃなくて母親みたい。一緒にいるだけで息苦しい」


想定外の反応にぎくりとする私を視界に入れずに、苦い顔をして続けた。
浮気されて、傷ついた。
被害者は私。
詰りたいのも悲しいのも私の方。
だから、謝るのは剛で、許すか許さないか決めるのが私。
反省して、真摯に謝ってくれたら、この一回は水に流そう――。
酷く傲慢に考えていたことに、初めて気付いた。


彼の『母親みたい』という言葉は、私の胸に鋭く突き刺さった。
先週、浮気現場に遭遇したのも、スキル維持を目的とした、一年に一回の放射線技師の院内試験を控えた彼に、夜食の差し入れを持って行った時だった。
干渉して小言ばかり……確かに、そうだったかもしれない。
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