孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「契約となると、お互いメリットがなきゃ成立しない。でも、茅萱さんにもメリットはある」


含ませるように言葉を切る彼に、私の心臓がドクッと沸き立つ。


「親に……結婚を報告できるってこと?」


霧生君は、私に横目を流して頷く。
私は呆然と彼を見つめて、ゴクッと唾を飲んだ。


「でも、そんな。嘘つくなんて……」

「契約でも結婚するなら、嘘にならない。それに、結婚に破れて、もう一生恋なんかしないって報告するより、幾分ご両親を安心させられるんじゃない?」


揺れる心を見透かし、ズバリ突かれて返事に窮した。


「僕にとってのメリットは、話した通り」


霧生君はそう言って、ビールジョッキを唇に運んだ。
仰け反った喉元で喉仏を上下させて、ゴクゴクと飲む。
ドンと音を立てて、ジョッキをカウンターに戻し……。


「どう? 元クラスメイトで、これからは同僚でもある僕を、助けてくれないかな」


顔の前で両手の指を組み合わせ、首を傾けて斜めの角度から見上げてくる。
私はつられて視線を返しながら、さっきから鼓動がうるさい胸に手を当てた。


「僕は茅萱さんにしか、こんなこと頼めない。君も、この先恋をする気がないなら、問題ないはず」


覚悟を試すように問われ、私は彼から目を逸らすこともできなかった。
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