孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
いつもの私は自室に下がり、とっくに夢の中の時間だ。


「明日休みだから、ちょっと夜更かししたくて」


霧生君は着ていたロングコートを脱ぎながら、私の方に歩いてきた。
テーブルの上をちらりと見遣り、「なるほど」と納得顔をする。


「霧生君は随分遅かったね。お疲れ様」


コートをソファに放り投げ、労った私の隣にドスッと腰を下ろす。


「うん」


疲れた顔でシートに深く背を預け、喉を仰け反らせて天井を仰いだ。


「帰りがけ、脳外科で診てもらいたいって、救急から連絡入って」


眼鏡を外し、目頭を指でグッと押しながら、答えてくれる。


「えっ……。あの後またオペに入ったの?」


今日の夕刻、霧生君は経鼻内視鏡による下垂体腫瘍摘出術の執刀を終えたばかりだ。
腕のいい彼だから二時間で終わったけど、オペの間の集中力は相当なものだし、疲れだって半端じゃないはず。


「うん」と頷く彼にひょいと肩を竦め、私は軽くソファを軋ませて立ち上がった。
キッチンに入り、熱めのお湯で硬く絞ったハンドタオルとミネラルウォーターのペットボトルを手に、ソファに戻る。


「はい」

「あ、気持ちいい」


伏せた目蓋にタオルをのせてあげると、霧生君が弾んだ声をあげた。
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