孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「どうしよう……なんて慰めれば」


やるせない気持ちになって独り言ち、自分の耳で拾って、それもマズいと思い直す。
私が慰めたりフォローしたりしたら、霧生君のプライドはますますズタズタになる。
いや、そう推測するのもまた罪な気がして、もうどうしていいかわからない。


――あえて、触れない?
うん、それしか思いつかない。
私は高級ワインを堪能して酔っていたし、『あまりよく覚えていない』ということにした方が平和な気がする。


霧生君との契約結婚も、あと一週間で終わるし。
私がここを出て看護師寮に戻れば、顔を合わせるのは職場のみ。
余計なことを話す暇もないから、あとは時間が解決してくれるのを待つ。
逃げるようで卑怯だけど、その決定が最良だと信じることにした。


そうと決まれば、酔いが回って寝入ったように見せかけるが一番。
自室に戻るのは冷静すぎてリアリティがないと考え、私は霧生君のベッドにゴロンと横になった。


眠ろうと目を閉じるけど、どうしても彼の顔がチラついて、一向に睡魔は訪れない。
夜中何度も寝返りを打って過ごし、気付いたらカーテンの隙間から朝日が射し込み始めた。
部屋の中のものの輪郭がはっきりと明瞭になって、私はモゾッと身体を起こした。


「……霧生君」


寝室を出て、家からもいなくなってしまった霧生君。
夜が明けても、彼は帰ってこなかった。
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